以前は肘の内側の痛みについて書かせていただきました。
今回は外側の話、つまり外側上顆炎です。
外側上顆炎は「テニス肘」とも呼ばれています。
症状として
・肘の外側に圧痛、熱感。
・掌を下(前腕回内位)にて物を持ち上げる際、タオルを絞る際に同部位に疼痛。
・他動的に手首を掌側に曲げる(屈曲)、自力で手首を手の甲側に曲げる(伸展)で疼痛増強や疼痛誘発。
・前腕外側の筋緊張。
・手関節の脱力感や握力低下なども出現する場合も有る。
外側上顆とは、上腕骨遠位外側(肘の外側)にある骨性隆起の事を指します。そこには指を伸ばす(指の伸展)筋肉や手首を手の甲側に曲げる(手関節伸展)筋肉、いわゆる伸筋群が付着しています。
<前腕伸筋群>
・ 肘筋
・尺側手根伸筋
・回外筋
・長橈側手根伸筋
・短橈側手根伸筋
・総指伸筋
・小指伸筋
本来クライミングは伸筋群とは拮抗関係にある屈筋群(物を握り把持する筋肉)をより多く使用します。
では、なぜクライミングをしていて外側上顆炎になってしまうのか考えてみましょう。
原因は複数ありますが、主に考えられるのが下記の理由です。
・前腕伸筋群付着部に過剰な牽引力が働く。
手首を掌側に曲げる、指を曲げることにより、伸筋群が遠位に牽引され、付着部の外側上顆にて炎症が起こる。
さらに、痛みを感じると筋肉は防御性収縮を起こしてしまいます。伸筋は縮もうとしているのに伸ばされてしまう。結果的に外側上顆部にさらなる牽引力がかかり炎症を増悪させてしまう。
・短橈側手根伸筋のオーバーユース。
ホールドを把持し、手首をロックする。実はこの動作を行うにも伸筋を使用します。
試しに強く拳を握りしめてみてください。
手首が軽く背屈するのがわかりますか?
解剖学や運動学的に、強く握る動作を行う際は、この「軽く背屈する」状態が一番力が入ると言われています。
そしてこの肢位を作り、保つために働くのが短橈側手根伸筋です。
テニスのプレイ中などによって外側上顆炎になるケースもこの筋肉が大きく関わっていると言われています。
<短橈側手根伸筋の機能解剖>
上腕骨外側上顆より起始し第3中手骨背側に停止する。
作用として手首の背屈(手の甲側に曲げる)と橈屈(親指側に曲げる)の他に、物を握った状態だと手関節の固定、安定作用として機能します。
・前腕、肘関節のアライメント異常。
クライミング時の上肢は前腕回内位(掌を壁に向ける)、肘関節屈曲位(肘を曲げる)で登ります。
この肢位を酷使する事により外側上顆に付着する回外筋(掌を上に向ける作用がある)が牽引され付着部での炎症が生じます。また、前腕回内位で肘関節を曲げる作用がある腕橈骨筋が過緊張することにより短橈側手根伸筋を圧迫することも外側上顆部の痛みの要因として考えられます。
治療法として
・炎症部位(上腕骨外側上顆部)のアイシング
15〜20分程度患部の感覚がなくなる程度冷やす。
・前腕伸筋群の筋緊張緩和
摩る、撫でる程度のマッサージ。
・痛みを感じる動作の中止や制限
手首をがっちり固定するカチ持ちではなく多少動きのあるオープン持ちなど痛みの出ない動作を行う。
握る際もなるべく小指側に力を入れることにより短橈側手根伸筋への負担を軽減できます。
・テーピングやエルボーバンドなどを用いて筋付着部への牽引ストレスを軽減させる
肘を伸ばし、手首を掌屈した状態で伸縮性テーピングを伸ばさない様に外側上顆部から手の甲まで貼る。
非伸縮性テーピングで手首を巻く。
・痛みが軽減してきたら伸筋群の筋トレ、ストレッチ
反対側の手で拳を握り、手首を掌屈させ30秒程度静止する。
その姿勢のまま手首を親指側や小指側に捻ると他の伸筋も伸ばせます。
上記のように、クライミングにおいて伸筋群は主に拮抗筋や手首の安定作用として働きます。そのためオーバーユースや痛みに気づきにくいです。
そのため普段からのケアが重要なポイントになってきます。
無理せず、サボらずケアして今日も登りましょう。
では。